シンポジウム 厳しいが温かい指摘
シンポジウムのテーマは「未来へとつなぐ地域遺産―美しい自然と貴重な歴史環境をまもるナショナル・トラスト活動のこれから―」。
基調講演はアレックス・カー氏=写真。1952年生まれの米国人。64年に初来日、エール、オックスフォード両大学で日本学と中国学を学び、慶應義塾大学に留学中の73年に徳島県祖谷の山村に茅葺き民家を購入、篪庵(ちいおり)と名づけて住めるように改装、屋根もふき替えた。現在では株式会社「庵」を設立して、京都の町家を宿泊施設などに再生させている。四国でジェイアール四国アーキテクツ(東矢英二社長)が展開している事業と同じだと思っていたら、「提携しています」と話した。
「美しい日本―歴史的建造物の活用と日本ナショナルトラストへの期待」の講演は、終始耳の痛いものだった。過疎地に放置されている日本家屋。どうしてよみがえらせないのか。篪庵(4間×8間)は土地120坪(約396平方㍍)とともに38万円で購入、囲炉裏を囲んで食事がとれるようにしたり、寝泊りできるようにしている。「文化遺産を破壊、捨て去っているのですよ」と流ちょうな日本語で。
「日本の田舎をすくいあげるのは最後は観光だと思う」と述べ、JNTについては「飛躍の予感がある」と活動に期待を寄せた。 この後のシンポジウムで、JNTについて厳しい意見が出た。「観光資源保護財団」が設立時の名称で、堀木鎌三氏(2代目会長)が旧鉄道省の後輩梶本保邦氏に財団づくりを託した。梶本氏は5代目会長で、6代目は杉浦喬也氏、現大塚会長が7代目会長となる。
英国ナショナルトラストの会員は現在356万人。JNTは個人2000人、団体90に過ぎない。英国では大きな邸宅に宿泊できたり、レストランがあったりで、年間の収入が1000億円、JNTは1億円程度(水嶋智観光庁観光資源課長)。
これに対し、西村幸夫東大教授は「英国ナショナルトラストの誕生は1895年。その40年後、1935年は現在の日本の会員と変らないだった。創設から60年以上経って一気にテイクオフした。くじけないで会員増をめざしてほしい」と話した。
知名度アップのためのアイデアも出され、前文化庁文化財監査官の苅谷勇雅氏は「JNTブランドの商品をつくり、プロパティーやヘリテージセンターに置いたらどうだろうか」と提案した。「JNTの出番ですよ」は会場を埋めた400人の共通認識になったと思われる。シンポジウム終了後、上野精養軒で開かれた意見交換会で、JTB会長の佐々木隆氏(財団評議員)は「オバマ大統領誕生は草の根の献金でした。私も初めて財団に個人的な寄付をしたいと思います」といって乾杯の音頭をとり、喝采を浴びた。