2009年2月1日日曜日

日本鉄道保存協会はこうして生まれた

                                  米山 淳一

 煙をはいて豪快に走り抜ける蒸気機関車が全国各地で人気だ。一度はその効率の悪さから姿を消したものの、人々の熱いエールに応え、見事に復活したのである。この陰に、鉄道関係者や市民、専門家、多くの皆様のご努力があることを忘れてはならない。 
 「鉄道は文化財」と信じてキャンペーンを始めたいと財団法人日本ナショナルトラスト(当時・観光資源保護財団)に在職中、上司に相談したら、鉄道が文化財? と一蹴された。今から24年前のことだ。すでに千葉県で小湊鉄道の輸入蒸気機関車が県の文化財に指定されていたので、この事例を根拠とし、鉄道文化財の全国調査を開始した。そのための委員会の席上で、専門家と国鉄関係の委員から鉄道文化財の概念とはなにか? と問いただされ、トイレで考えて苦し紛れにお答えしたのが、歴史。文化的価値の高い鉄道車両、施設、構造物だった。調査は運良く資金にも恵まれ、たくさんのボランティアの手助けを得て報告書をまとめ、その上、シンポジウムまで開催。結果として我が国初の市民参加による歴史的鉄道車両の動態保存「トラストトレイン」計画を実現するに至った。すでに、国鉄SLやまぐち号、大井川鐵道SL川根路号が好評だったところに、さらにトラストトレインが人気を博し、全国各地で蒸気機関車ばかりか歴史的車両の保存は上げ潮の状況にあった。 
 そこで、同志で力を合わせて動態保存を推進することを目的に設立したのが「日本鉄道保存協会」。モデルは英国保存鉄道協会。平成2年10月のことである。小池滋氏(英文学者)、青木栄一氏(東京学芸大学名誉教授)、松澤正二氏(元交通博物館長)が顧問に就任。今日30団体を数える会員は当初、JR九州、明治村など6団体にすぎなかった。 
 鉄道文化財は文化庁の推進する近代化遺産(我が国の近代化に貢献した産業、交通、土木遺産)にも含まれ、重要文化財、登録有形文化財でゆうに100件を超えた。隔世の感がある。そして今年度の鉄道保存協会総会でついに英国鉄道保存協会会長を招き、本格的な交流が始まった。昨年4月に菅さん(交通文化振興財団理事長)のお供で参加した欧州鉄道遺産保存会議がきっかけとなったのである。(元日本ナショナルトラスト事務局長)