2008年11月26日水曜日

山之内秀一郎さんを偲ぶ(5)

南房総 白浜海岸にて

辻 勝
 今から30年ほど前、私は当時国鉄の「ときわクラブ」にNHK記者として在籍していた。1979年の夏のことだったと思う。当時千葉県・白浜海岸に「南房荘」という国鉄の保養所があり、休暇をとって家族4人で出かけた。その時、海岸を散歩中の山之内ご夫妻とお会いした。ご夫妻は小学生の2人の子どもに、やさしく声をかけてくれた。
 海風が心地よく、砂浜に打ち寄せる波が夕日に染まっていた。波打ち際を歩き、岩に座って、海の遠くを眺めたりしてくつろいでいた山之内さんご夫妻の姿が非常に印象的で、今も「静止画」になって私の頭に強く残っている。夕食の時、賄いのおばさんが「これ、山之内さんからの差し入れです」と貝の造りを運んできてくれた。新鮮でぜい沢な造りに子どもたちも大喜びした。当時、山之内さんは、発表のために記者クラブに時々姿をみせ、私も難しい話を聞きに、時たま席にうかがう程度のお付き合いだった。
 JRから「EAST」という雑誌が送られてくる。私が最初にページを開くのは山之内さんの「世界鉄道めぐり」である。彼自身の写真をそえた散文的で、温もりのある文章。鉄道を基点に、その国やその土地の文化、芸術、歴史の中にどんどんでかけてゆく。もう一度、通しでじっくり読んでみたい。
 お別れ会の会場のボードに紹介されていた「妻とめぐりあった幸福インタビュー」(東京新聞)に山之内さんは次のように語っていた。
 「一番大事なのは家族なんですね。わが人生で一番恵まれたことは、今の家内に巡り会えたことです。仕事は『もうイヤだけど』生まれ変わるとしたら、ぜひ今のかみさんとまた出会いたいと思います。」
 南房総の海のご夫妻の「静止画」が重なり、胸が熱くなった。
 さようなら 山之内さん。
(元NHK)